こんにちは。
今回ご紹介するのは、書店で特別コーナーを設けて紹介されていた『中流崩壊』です。
建前上、日本には「階級・格差」など「ない」ことになっていますが、
コロナ禍において、実は「階級・格差がある」ことが浮き彫りになった、
という書です。
他人事ではないと思って読んでみました。
従来からの個人事業主的な働き方をする旧・中間階級が大打撃を受け、それに付随する労働者も大打撃。
ホワイトカラー、専門職などの新・中間階級と資本家はそれほど打撃を受けず。
さて、今まで「極右」、「極左」が「全体主義」を生み出すものと勝手に思い込んでいました。
しかし、米国の社会学者シーモア・リプセット(1922-2006)によれば、
「全体主義」を生み出すのは右翼でも左翼でもなく、「中間派」
とのこと。
つまり、僕も含めて多くの人が知らず知らずのうちに全体主義に染まってしまう危険がある
ということも書かれておりました。
「中間派」の通常のイデオロギーは「自由主義」。
自由経済を支持する一方で小企業の存続を支持し、政府による最小限の規制を求める。機会の平等は求めるが、強力な労働組合、強制的な所得平準化には反対。貴族制や伝統主義にも反対といった考え。
しかし、様々な条件で保守主義も社会主義も自由主義も過激化する。
保守主義は過激化すると右翼過激主義に、社会主義は過激化すると共産主義に、そして自由主義は過激化すると全体主義に。
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でも、それは「全体主義」を奨励していこうとするものなのかね?
もちろん、格差拡大には大反対で、現在、最も痛手を被っている弱者に支援が必要なことは自明だがな。
とりわけ、現在は1920年代後半~1930年代との類似性を何となく感じます。
内外の政治課題に迅速に対応できない内閣への苛立ちに対し、機先を制して「陸軍パンフレット(いわば、陸軍のマニフェスト:1934年)」を出して国策の独占を図ったのが永田鉄山ら陸軍。
そしてそれに率先して乗っかったのが、労働者を守る立場の「社会大衆党」(主に麻生久)。
今後のコロナ社会において、全体主義的な傾向が出てこないか、注意が必要かと思います。
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注目すべきは1925年、男子普通選挙法が制定された段階で、時の内務官僚たちは「無産政党」(労働者たちの党)を「政治に不可欠」と考えていたことです。
治安維持法で共産党、無政府主義者が検挙されたことから、無産政党が弾圧されたかのようなイメージがありますが、共産党、無政府主義者は天皇制打倒を主張していたから排除されたのであって、そうでない無産政党は弾圧を受けておりません。
イギリスの「労働党」のような存在を必要としていたということです。
コロナ禍に対応するには共産主義じゃないとダメだ!なんて、いう論者もちらほら見かけるのですが、今こそ政党には矜持を見せて欲しいと思っています。
(昭和初期に二大政党制が消滅した原因は軍部の台頭に原因があるのではなく、政党自身の堕落によると考えます。)
かなり早い段階で、「コロナ専用病院をつくるべき」と提言していた先生方がおりましたが、そういう建設的なところにむしろ費やすべきだったのではないか・・・と、思います。
おまけ:幸徳秋水と大杉栄
日本史によく出てくる社会主義者。
ちなみに社会主義の目標は「社会のすべてを中等にしようとするもの」。
幸徳秋水
1871年生まれ。大坂で中江兆民に学び、東京で新聞記者を勤めたあと、政治活動に。「平民新聞」を創刊。(ほか堺利彦)1910年、明治天皇を暗殺しようとしたとして、死刑。(大逆事件)
大杉栄
1885年生まれ。無政府主義者。1912年、「近代思想」を創刊。関東大震災で甘粕正彦に虐殺。
いずれも中間階級が社会変革の担い手になるべきという主張が見られる。