こんにちは。
今回ご紹介しますのは、「ゲノムが語る人類全史」(2017年)です。
さて、「DNA解読技術」によって、遺骨や遺跡でしか考えることができなかった考古学の世界が一変したと言われます。
今後、歴史学・考古学・古生物学・医学は「ゲノム学」抜きには考えられなくなるのでは、と思いました。
以下、読書メモです。
序章:人類の歴史はDNAに刻まれている
★2001年のヒトゲノム解読時から15年。個人のゲノムから得られたデータの量は莫大になった。
古代人類の研究は、かつては古い人骨と泥に残されたかすかな生活の痕跡に限定されていたが、現在では遺伝情報により新しいルートが明らかになった。
この新しい科学が生み出しつつあるデータの量は圧倒的で、研究は毎週のように発表され、それ以前の結果をひっくり返し続けている。
第1部:人類の誕生から繁栄まで
§1.ネアンデルタール人との交配
きれいに枝分かれした系統樹、背中を丸めた人類が徐々に直立に近づいていくという図は間違っているということが明らかになった。
★20億年前、我々の祖先は両親さえ必要ではなく単細胞が2つに分裂するだけであった。40億年前は、大洋の海底の泡立つ熱水噴出孔の喧騒の内部の岩石中に閉じ込められていた。
★進化論を唱えたダーウィンは「高等とか下等とか言ってはならない」とメモしていた。これは、「進化的な進歩」という考え方への警鐘である。例として、フジツボの仲間は年代順の進化においてより単純になっていくことを示している。
★類人猿から猿人、原人と言う図は間違いなく「捨てるべき」。人類の進化の系譜は判然としていない。
★あなたをつくった卵子は、ママの卵巣内でまだママがそのママの体内にいる時につくられた。つまり、あなたのDNAはあなたの祖母の体内で作られた。
★染色体には何百万と言う組み合わせがあるが、ミトコンドリアとY染色体はそれがない。
★ネアンデルタール人が愚かであったことを示す証拠は1つもない。しゃべる能力はあったとみなされる。
★人はFOXP2遺伝子をもっていることでしゃべることができる。チンパンジーはこの遺伝子をもっていない。
★嗅覚はまだ解明できていない。19番染色体がOR7D4という対立遺伝子をもっているかどうかで、アンドロステノンと呼ばれる化学物質の感じ方が変わる、ということはわかっている。
★筆者(アダム・ラザフォード)のDNAは23andMeという会社で調べたところ、2.7%がネアンデルタール人のものだった。ネアンデルタール人は我々の祖先でもある。
★ヒト科はPan(チンパンジーとボノボ)、Pongo(オランウータン)、Gorilla、Homo(ヒト)の4種類。最初の3種類は染色体数が24。そして我々との不一致は2番染色体であり、我々のものは彼らと同じ配列であるが端と端が融合している。これはデニソワ人にもネアンデルタール人も共通。
★しかし、デニソワ人はまだいかなるDNAも取り出せていない種のDNAをもっており、第4の人類の痕跡がある。ホモ・ハイデルベルゲンシスかも知れないし、馬鹿(ばろく)原人が現生人類とデニソワ人の交配の結果かも知れない。
★100万年前に、現生人類、ネアンデルタール人、デニソワ人が集団性交していたという考えは理にかなっているのではないかと考える。古代人は絶滅したのではなく、「合体」したのである。
§2.農業革命と突然変異
人類の移動は非直線的・非放射状だった
★現在のシベリア人は東アジア人に似るが、太古のシベリア人はアメリカ先住民とよく似て、一部、北部ユーラシアとの混血がある。
人類の移動パターンは放射状ではなく、「もじゃもじゃ」。
なぜ人間だけが大人になってもミルクを飲むのか?
★歴史上、ほとんどすべての人物がミルクを消化する能力をもっていない。われわれはLCTでコードされるラクターゼにより乳糖を半分に切ってグルコースとガラクトースに分解するが、赤ん坊のみ活性をもっている。欧州人はラクターゼ活性持続症であるが、そっちの方が普通ではない。
★ラクターゼ活性持続症は、ラクターゼ遺伝子およびその周辺のDNAにおけるごく少数の個別の変化が原因である。英国人の圧倒的多数、北欧、西欧人のはラクターゼ遺伝子の開始点よりおよそ13000文字前のCがTに変わると言う単一の遺伝的変異をもっている。現在の技術ではこれが 紀元前1万年~5000年に生じた突然変異ということがわかった。
「ミルクを消化する」突然変異はいつどこで出現したのか?
★紀元前5500年には人類はチーズを作っていた。6000年前にはミルクは新石器時代の生活の一部になっていた。5000年前の遺体ではラクターゼ活性持続症遺伝子は見当たらなかった。
★いつどこで突然変異が起きたのかは今のところ特定困難。
欧州人の肌はいつから白くなったのか?
★メラニンには2つのタイプがある。1つはユーメラニンでこれがあると黒色あるいは褐色になる。もう1つはフェオメラニンで、赤毛のもとになる。
★皮膚の基部にはメラノサイトという色素細胞があり、太陽からの紫外線を受けてメラニンを合成する。髪と皮膚の色はメラニンのタイプと密度に依存。赤道直下で暮らす人々はメラニンだらけになることで身を守っているのである。
★5万年前に欧州に移り住んだヒトの肌は黒であったと、自信をもって言える。8000年ほど前でもしかり。7700年前のスウェーデンでは白い肌の変異をもっていた。
<アルビノ>
チロシナーゼが不全であり、メラニンを産生できない個体をアルビノという。
アルビノの体毛や皮膚は白く、瞳孔は毛細血管の赤色となる。皮膚ガンのリスクが高く、また弱視を患っている場合が多い。
アルビノは人だけでなくすべての種に見られ、各地で神聖視された歴史を持つ。
雄略天皇の皇子である清寧天皇(白髪皇子)がアルビノであったと言われる(!?)。
また、実験用ネズミやウーパールーパーもアルビノである。
遺伝子的には幾つかの変異が確かめられているが、いずれも常染色体の劣性遺伝である。
アルビノの頻度は1万人に1人程度で、幾つかの変異を纏めた保因者は70人に一人であると言われている。
★ヴァイキングたちは通俗的な描写のように残虐ではなかったかも知れない。彼らは農耕をし、文書を書き、偉大な芸術をつくった。英国人のゲノムにデーン人のDNAは存在しないのがその理由である。
★アイスランド人はわずか35世代しか存在していないので、研究が容易。一方、遺伝的に近い人々が住んでいるため、「近親相姦アラーム」というアプリも開発された。(サッド・エンジニア・スタディオス、2013年。isLendingaApp:iの頭は発音記号の強音)
ちなみにアイスランドで最も有名な人は歌手のビヨーク。
免疫システムを乗っ取るペスト菌
★現在では抗生物質により最初の2,3日で制御できるが、2015年秋にコロラド州で大流行した。1つの病気が大陸の歴史の行く末を著しく変えることは滅多にないが、ペスト菌はそれを2度やってのけた。
1度目はローマ帝国の崩壊(コンスタンチノープルでは1日5000~1万人死んだとも。帝国全体で2500万人が死んだとも。)
遺伝生物学の進歩のおかげでこれはアフリカではなく、中国からもたらされたものであることが判明。
★2度目の大流行も東からで、1350年にはブリテン島民の1/3が死んだ。1666年のロンドン大火でようやく鎮圧。
★「ペスト菌、600年前から変化せず」https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/5026/
§3.近親相姦の中世史
リチャード3世の遺体が死後500年以上経って発見されたが、そこから抽出されたDNAは現在生きている男系子孫のDNAと一致しなかった。どういうことか?
↓↓
A) どこかで史実とは異なる人物のY染色体が入っている。
★遺伝子検査キットでわかるのは確率だけで、運命の計算ではない。
★祖先探し検査をしてもあなたの地理的起源はわからない。
★10万年前、アフリカ大陸にいたこと、アフリカ人以外にはネアンデルタール人のDNAが含まれていることのみは正しい。現在のあなたが誰と共通祖先をもつかだけを示す。
★つまり、金の無駄、というわけだ。(♨だからこそセール期間に!)
【リチャード3世】
シェークスピアには残忍な王として描かれるが、それは彼を倒したテューダー朝による事実歪曲。
★リチャード3世の「凄惨な死」、遺骨から明らかに
http://www.afpbb.com/articles/-/3026146
★「530年の眠りから覚めた」…2012年、そのリチャードの遺骨がイングランド中部レスターの駐車場で発見され、世界中に衝撃が走った。
https://www.japanjournals.com/feature/survivor/6932-151001richard.html
(♨レスターといえば岡崎。)
【カルロス2世】(1661-1700)
ハプスブルク王朝最後のスペイン国王。跡継ぎに恵まれず39歳直前で死去。4歳まで歩けず、8歳までしゃべれず、しゃべったとしても言語は不明瞭。痙攣、幻覚、精神障害など。
★下顎前突はハプスブルク唇とも。
★属外婚を100年以上前から認めなかったことも禍。
★ハプスブルク家の子供の8割は10歳になるまでに死んだ。
★おそらくカルロス2世は複合下垂体ホルモン欠損症と遠位尿細管アシドーシス。
★ちなみにダーウィンはいとこ婚で、10人の子供のうち3人は11歳になる前に死んだが、当時の医学レベルからして決して珍しかったわけでもなく、F値もハプスブルク家ほどではなかった。いとこ婚で劣性遺伝子病が発生するリスクは41歳以上の高齢出産と同レベル。
★しかし、テイ=サックス病、小眼球症候群など明らかに血族婚な病気も存在。
第2部:世界はどこに向かうのか?
§4.人類が消滅する日
かつて遺伝学は人種差別や優生学とつながった。
しかし現在では人種間よりも人種内の方が違いが大きいことがわかった。
★遺伝学的に「人種」は存在しない。遺伝学はそもそも人種差別主義者により確立された。彼の名はフランシス・ゴルトン。ダーウィンの又いとこでもある。
★優生学と結びつきナチは統合失調症患者を殺害したが、数年は減少しても減ることはなかった。
★ちなみに女性が採集を担当し、狩猟を行わなかったという証拠は存在しない。
鎌状赤血球はマラリアへの防御策
★特定の地理的な区域で繁栄するために進化した適応であると明確に証明できるようなものはほんの一握り。肌の色であったり、ミルクを消化する能力であったり(酪農業の出現と完全に合致)。あとはマラリアに対する鎌状赤血球。
★奴隷制により育種選抜が行われたという考えは危険。
§5.遺伝学は病気を根絶できるか?
ゲノムをもとに根絶できた病気はまだない。
★科学は多数が力を合わせて行うもので、一人で生涯をかけた研究を行う科学者と言う発想はただの古い神話に過ぎない。
(学会における発表や正式な講演は重要であるが、時には驚くべき結果がスライドに詰め込まれていて鬱陶しく理解しがたくなったり、能弁でカリスマ的な発表が薄っぺらなことも。しかし、酒場こそ本当の科学が吟味され、最良の考えが集められる。)
♨「学会よりも酒場の方が最良の考えが集められる(アダム・ラザフォード)」。
これ、名言。
★ヒトゲノムに存在するDNAは電話帳20冊分の文字からなる。
★ヒトの遺伝子の数が科学者の賭けに使われたが、ほとんどの学者が万単位でまちがえた。正解は2万程度であるが、最も多くて29万と予想したものも。
★実際にタンパク質をコードしているのは全DNA量のたった2%以下
★遺伝子の少なさが1つめの解明なら、2つ目がこれ。(「罪と罰」で意味のある文章は300くらいで、残りの21万1591がちんぷんかんぷん、みたいなもの(笑))大半はゲノム構造のために割り当てられている。
★生きた細胞のDNAはほとんどの場合、ずっと二重螺旋というわけではなく、たえず慌ただしく変化し続け、ほどけてはまた2重らせんをつくり、常に編集を受けている。
★ゲノムに散在する転写因子が遺伝子のスイッチをオンにする。活性をもつのは一握りの遺伝子だけ。目をつくる指令を送るCHX10など。
★「セントラル・ドグマ」と言う言葉は「セントラル仮説」であるべきだし、「ジャンクDNA」という受けの良さそうな言葉もどうかとは思う。
★塩基の羅列を読むのは絶望的に面白くない。99.9%同じDNAでも違いは300万か所。
(♨一見、華やかそうな研究に見えるが。)
★ゲノムをもとに根絶できた病気はまだない。2000年6月にクリントン大統領が「病気の終焉は間近」と宣言したが・・・。
(♨クリントンのような厚顔無恥は怖い。今のところ、「わかっていない」ことがわかった程度である。)
★同じ突然変異をもつ患者がすべて同じ症候をもつわけではない。
★「共通の病気には共通の遺伝的原因がある」というのは誤解。ゴルトンの予想とは裏腹。
★身長のような単純な事象さえ謎に満ちている。遺伝的な成分を探す時、ほんの小さい断片しか発見できない。
★物理学はすべてのことを記述できる単純なモデルに宇宙を還元する生来の傾向をもっていて、洗練することにより宇宙はさらに単純になっていくと考えていることが多いが、生物学者はそうならない。
♨医学の世界もエビデンス全盛であるが、この考えは示唆に富む。
★えくぼにしても単一の遺伝子により遺伝する形質と考えられていたが、実際はもっと複雑。
§6.犯罪遺伝子プロジェクト
この狂乱をしかけたのは権威ある科学雑誌「サイエンス」であったりする。
犯罪者から「犯罪遺伝子」は見つかるのか?
★この狂乱をしかけたのは権威ある科学雑誌「サイエンス」であったりする。「MAOA」が戦死の遺伝子ともてはやされたのもそれ。実はマオリ族よりMAOAは中国人が多くもっていた。
(♨それよりも心理学、精神医学を勉強するべきであろう。)
★連続殺人犯の脳を調べても特異な点は見つからなかった。
★遺伝学は確率の科学でありDNA塩基配列だけでは予測できない。
★有名人のDNAを抽出しても何ら手がかりは得られない。
★「コカイン中毒遺伝子を発見」とか「ゲイ遺伝子を発見」とかというのは信じちゃダメ。
★エピジェネティクスとは遺伝子制御システムの1つ。遺伝子そのものの塩基配列を変えることなくDNAを修正する。15歳の時にナチスの影響で飢饉に襲われたオランダに生まれたオードリー・ヘップバーンの健康障害もそう。
★「ナノ」とか「ニューロ」とかという言葉もいかがわしい。
★ナチスの件で予想外だったのは結果の一部が子供にも引き継がることがあったこと。
★エピジェネティクスの影響は2,3代で消える。
§7.ホモ・サピエンスの未来
人の目は普通は三色色覚であるが女性の8人に1人は四色色覚を生じ得る変異遺伝子をもっている。これらの変異遺伝子はここ5000年以内に生まれたもので、人類が進化していることを示す。
変わることのない種は既に絶滅している。
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