こんにちは。
今回ご紹介しますのは、「日本の安心はなぜ消えたのか」(2008年)です。
著者は社会心理学を専門にされている先生です。

「武士道」が日本をダメにする!!
さて、「武士道」といえば「新渡戸稲造」でしょうか。
しかし、その「武士道」は「戦争の無かった江戸時代において、武士ってこうあって欲しいよね~という、いわば『願望』を書いたようなもの」と理解しております。
(リアルに戦争のあった中世の武士たちは明らかに考え方が違うのですがね。)
そして、「武士道」とはあくまでも「統治の理論」でもあると思います。
つまり、統治者にとって、主君を大事にしてくれた方が統治しやすいのです。
しかし、これが行き過ぎるとどうでしょうか。
あまりにも「主君」あるいは「会社」を大事にしてしまうから、「食品偽装」、「粉飾決算」などにつながってしまう、というのが著者の主張です。
世に言う「ブラック企業」、「体罰」なども、そういったものの延長線上にあるのでしょうか。
そもそも、江戸時代の武士たちは、「武士道」を学んだから、「主君」を大事にするようになったのでしょうか?
忠臣蔵をはじめとする時代劇やテレビドラマなどを観ると、江戸時代の武士はそうだったに違いない、という錯覚に陥りますが、
大方の武士は、「そうにふるまう方が得をする」ことがわかっていたから、「武士道」っぽくふるまっていたに過ぎない、という著者の意見が正解のような気がします。
「武士道」を妄信してしまうと、とても息苦しい社会になってしまいますよね。
これからは「商人道」?
さらに武士道的な企業では、上の意見が強すぎます。
これでは混沌とした時代、変化の多い時代に対応できません。
そこで市場の倫理である「商人道」という発想を紹介されております。
武士道に代表される統治の倫理とは、結局のところ、社会体制を維持するために権力者が守るべき道徳律に他なりません。…これに対して市場の倫理とは、権力に頼ることなく、おたがいに繁栄していくためにはどう行動していくのがいいのかと考えたときに生まれたモラルの体系であると言えるでしょう。…商人道であり、市場の倫理であるといえます。
第10章「武士道精神が日本のモラルを破壊する」より(p256)
「商人道」を説いた人物としまして、江戸時代の石田梅岩を紹介しています。
かいつまんでいいますと、「武士には武士道があるように、商人にも商人道がある。商人は商人道を究めなさい」といったものでしょうか。
彼の著書『都鄙問答(とひもんどう)』、彼の学問『石門心学』という言葉は覚えておいて下さい。
[wiki]
「品格」が日本をダメにする!!
また、「品格」を求めるのもダメと言っています。
いくら国民に徹底した倫理教育を施したところで、「いい国」「美しい社会」など生まれないということは歴史が証明しているからです。なぜ教育改革論者たちは、こうした歴史の教訓に対して無関心なのでしょうか。
第1章「「心がけ」では何も変わらない!」より(p21)
結局、品格うんぬんなんて求めるのではなく、利害をちゃんと調整することの方が大事だし、健全だと思いますね。
お金を稼ぐことだって悪いことではないでしょうし。
ここに「品格」をもってくるから、息苦しくなる、というのですが、
個人的には、「品」は大事かな、と思ったり。
賛否両論あるかも知れませんが、実に考えさせられました。
是非、一読を。
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