こんにちは。
今回ご紹介しますのは、河合敦先生の「日本史は逆から学べ」(2017年、光文社)です。
本書は『2018年 啓文堂 雑学文庫大賞』を受賞し、とにかく売れているらしいです。
「逆から学ぶ」と発想が売れているポイントでしょうか。
河合敦先生の本はどれもホント面白いですし、河合敦先生の本だけ読んでいれば、それだけで日本史通です。
しかし、本書の批判をあえて書くとすれば、
「あまりにも説明が、わかり易すぎる」
という点でしょうか。
たとえば、「嘉吉の変」における赤松満祐追討に関して、河合先生は
<なお、赤松満祐を討つべく、幕府の征討軍が発向したのは暗殺の翌月であった。>
河合敦「なぜ足利将軍の力は弱まったのか?」
の一行のみ。
たしかに高校生レベル、一般教養レベルであればこれで十分ですが、「なぜ1ヶ月もかかったのか?」に興味をもってしまうと、「頭から」勉強しないとダメだと思うのですよね…。
※なぜ1ヶ月かかったのかは呉座勇一先生の著書:「戦争の日本中世史」がオススメ。
とはいえ、この書籍は河合先生が受験生や社会人に「いかにわかりやすく」説明するかに力点を置いて書いた本なので、初心者はこの本でOKなんじゃないかと思います。
ちなみに、「なぜ足利将軍の力は弱まったのか?」に対する、河合先生の答えは、
<6代将軍・足利義教が殺されたことをきっかけに以後、幼君が続いたから。>
河合敦「なぜ足利将軍の力は弱まったのか?」
とありますが、うーん、どうでしょう。
おそらく僕が歴史学者であれば、こういうシンプルな解答が許される立場の人にちょっと嫉妬にも似た感情を抱く、かな。
書籍紹介
日本史は逆から学べ 近現代から原始・古代まで「どうしてそうなった?」でさかのぼる [ 河合敦 ]価格:842円 (2019/5/30 16:27時点) |
【追記】(2019/08/07)
近代史のところを読み返して見ました。
…やっぱり、ダメだ!
この書籍の近代史を読むと、あたかも日本だけが強欲で戦争になったかのような「錯覚」を受けてしまいます。
もちろん、領土的野心を否定はしませんが、それは日本だけの問題ではないということ、
そして、現在、史学会では否定されているようなことも、平気で載ってしまっているのはやはり問題だと思います。
ベストセラーになってしまっているならなおさらのことです。
あとは、「わかりやすさ」を追求するあまり、やっぱり「単純化しすぎ」。
そもそも複雑な経過を経て成立したものを、単純な説明でかわせるはずがありません。
これを「正史」と思ってしまうと、
「歴史の上っ面だけ学んだ大人」が再生産
されます。
もっとも、これで河合敦先生への評価が下がるわけではありません。
【追記】(2019/10/05)
…やっぱりダメだと思います。
最も売れている本が最も河合先生らしくないというのは本当に皮肉です。
日米の戦争の理由は、「日本が真珠湾攻撃をしたから」とありますが、
「日米交渉の失敗」、「アメリカ側の意図」、「山本五十六の早期講和論」、「日本戦史によってインプリントされた奇襲論」、「独ソ戦(特にドイツがモスクワ戦で勝てなかったことを知らなかったこと)」、「海軍中堅部の考え」、「陸海軍の軋轢」など答えは1つではありません。
ただ、「逆から考える」発想は面白いと思いますので、それでいてより深く学びたい人のために他書の紹介も添えて頂ければ良かったかな、と思いました。