
さて、本書は
『2018年 啓文堂 雑学文庫大賞』
を受賞。それは良いとして、とにかく売れているらしい。
「逆から学ぶ」、というのはありそうでなかったのではないだろうか。
『変と乱の日本史』のところでも書いたが、河合敦先生はホント非の打ちどころがない。河合敦先生の本だけ読んでいれば、それだけで日本史通になれるし、点数もとれるであろう。
しかし、あえて批判を書くとすれば、
「あまりにも説明が、わかり易すぎる」
ということが問題であろう。
たとえば、嘉吉の変における赤松満祐追討に関して、河合先生は
<なお、赤松満祐を討つべく、幕府の征討軍が発向したのは暗殺の翌月であった。>
河合敦「なぜ足利将軍の力は弱まったのか?」
の一行のみ。
たしかに、高校生レベル、あるいは一般教養レベルであればこれで十分。
ただ、「なぜ1ヶ月もかかったのか?」というところに興味をもってしまうと、より専門的な本を、「逆からではなく、頭から」勉強しないとダメだと思う。
おそらく、もし呉座勇一先生(著書:「戦争の日本中世史」)がこれを書くのであれば、赤松追討が1ヶ月遅れた理由を説明するのに数ページにわたって書かれるうえに、「山名シフト」の話まで遡り、さらに観応の擾乱、さては南北朝時代、あげくのはてには蒙古襲来まで書かれ、とても1冊では収まらない。
生粋の歴史学者はそこまでしないといけないのかも知れないが、河合先生は元々高校の先生なのでそこまでする必要が全くない。僕が呉座先生の立場であれば、ちょっと嫉妬するかな。
「本選びのコツ」のところで呉座先生は「あまりにも簡単にわかるもの」に対して、「そんな単純なものはない」というような警笛を鳴らしているが、「あまりにもわかりやすい説明」は日本史のもつ本来の良さを曇らせるのではないか、と思ったりもしてしまう。
(単純に説明しないとと思うのは、「単純化圧力」というらしい。)
とはいえ、この書籍は河合先生が受験生や、社会人に「いかにわかりやすく」説明するかに力点を置いて書いた本なので、それは読者が意識して読まねばならない。
ということで、平たく言うと、
初心者はこの本でOK。
ちなみに、「なぜ足利将軍の力は弱まったのか?」に対する、河合先生の答えは、
<6代将軍・足利義教が殺されたことをきっかけに以後、幼君が続いたから。>
河合敦「なぜ足利将軍の力は弱まったのか?」
うーん、That’s very simple !!
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【追記】(2019/08/07)
近代史のところを読み返して見たが、
やっぱり、ダメだ!
日本史を学ぶと、少なからず「戦争は良くない」という思いは出てくると思うのだが、「戦争は良くない、日本だけでなく、アメリカも、ドイツも、イギリスも、フランスも、、、」なのである。
しかし、この書籍の近代史を読むと、あたかも日本だけが強欲で戦争になったかのような「錯覚」を受ける。
もちろん、欲があった部分は全否定できないとは思うが、現在、史学会では否定されているようなことも、平気で載ってしまっているのは問題。(ましてやベストセラーになってしまっている)
あとは、「わかりやすさ」を追求するあまり、やっぱり「単純化しすぎ」。そんな単純な過程でものごとは進まない。
これを「正史」と思ってしまっては、
「歴史を上っ面だけ学んだ大人」を再生産してしまうことになりかねない。
と危惧する。
だからといって、河合敦先生の評価が下がるわけではない。
これほどすごい人はなかなかいないと思う。
この書籍、売れているようだが、社会人は、読んで満足するだけではなく、是非、歴史検定を。【歴史検定の紹介はコチラ】
【追記】(2019/10/05)
やっぱりダメだ。最も売れている本が最も河合先生らしくないというのは本当に皮肉なことであるのだが、
複雑な経過を経てたどりついたものが、簡単な説明で済むはずがない。
なぜ日本はアメリカと戦争したか?と言えば、
直接的な原因は「日本が真珠湾攻撃をしたから」であろう。それで、なぜ「日本は真珠湾攻撃をしたのか?」となると、そこで、「日米交渉の失敗」であったり、「アメリカ側の意図」であったり、「山本五十六の早期講和論」であったり、「日本戦史によってインプリントされた奇襲論」であったり、「ドイツの攻勢と、逆にドイツがモスクワ戦に勝てなかったことを知らなかったこと」であったり、「海軍中堅部の考え」であったり、「陸海軍の軋轢」であったりと、10個以上は答えが浮かぶ。
それでもって、それぞれ「なぜ日米交渉は失敗したか」、「なぜアメリカ側は戦争を意図したのか」、「なぜ山本五十六は真珠湾攻撃を強く主張したのか」、「なぜ日本に奇襲論がインプリントされてしまったのか」などなどそれぞれ考えると、これまたそれぞれに答えが数個は浮かぶ。
そうしていくと、とても一言で答えられるものではない、ということがわかるであろう。
ただ、「逆から考える」という試みは非常に面白く、自分自身も考えてみると非常に頭の整理にもなる。こういったタイプの本があれば、是非、また読んでみたい。